旧車がきっかけの出会い
俺は山手通りにある洗車場で、愛車スカイラインGTR-GC110の手入れをしていた。
この車、実は親父が若い頃に買ったもので、大事にしていて、エアコン付きのガレージに保管され、定期的に親父が乗りまわしていただけの車なのだ。
その親父もついに「おう、浩二。GTR,お前にやるぞ。大事にしろよ」と言われて、三ヵ月前に俺が譲りうけたものだったのだ。
走行キロ数、僅かに二万一千三十五キロメートルと、四十年以上前の車としては異常に少ないキロ数だ。
殆ど新車とまではいかないのだが、塗装の状態もほぼ完ぺきに保たれ、錆び等は皆無と言った状態だ。
メカニカル的なメンテは、親父が依頼しているところがあって、そこに全てをお願いしているから、このような名車を維持する条件は殆ど全て揃っている。したがって、お俺はGTRを風呂に入れてやる感覚でいれば、あとは何とか維持できるのだった。
俺が、ワックスを拭きとっていると、背後から“ソレックス2連装”と思われる吸気音を響かせて、隣のスペースになんと、オレンジのボディーカラーに映える“ベレットGTR”が入ってきたではないか。艶消しの黒に塗色されたボンネットが、オレンジのボディーカラーをいっそう強調し、更には“マシーン”と言ったイメージを強く醸し出している。
俺はワックスを拭きとりながら“いったい、どんな人がのってきたのだろう”と言うことに、強い興味を抱き、チラチラとベレGRを見ていた。
ドアが開き、降りてきたのは長身で、ショートカットが似合う若い女性だった。少なからず、俺は驚いた。なぜなら、この時代の車たちには“パワステ”などと言うものはついてはいない。したがって、ステアリングを操作するのには、かなり強い腕力を必要とするからだ。
「こんにちわ、GC110・Rですね、素敵ですね」と言うので「有難う、でもそちらのベレGRも素晴らしいですね。貴方がオーナーさんなんですか」と訊いた。
「ええ、まあ、一応はそうなんです。実はなくなった父が大事にしていた車でして、子供が私しかいないもので、私が・・・・・」と歯切れの悪い感じになった。
俺は「あ、申し訳ない。立ち入った事を訊いてしまいました。気を悪くしないでください。旧車のオーナー同士、いろいろと情報交換をしていきましょう。こう言った車達を、健全な状態に保つことは、恐らく大変だと思います。実は私も、最近親父から譲り受けたばかりでして・・・・・」とちょっと照れながら言った。
その後、彼女は洗車をして、室内のクリーンナップを終え、車内の整理を始めた。俺も、最後に窓を全部綺麗に磨きあげて、今日の作業を終わりにした。
俺が何気なく「俺はもう終わりましたけれど、良かったらこの先にあるファミレスでお茶でも飲みながら情報交換をしませんか」と言うと「え!いいんですか。実はこれからどうしてこの車を維持しようかと思っていたんです」と、彼女は顔を輝かせて言う。
俺たちは二台連ねてファミレスの駐車場に入り、空いている駐車場に並べて愛車を停めた。
現代のインジェクションタイプの車ではあり得ない、キャブの吸気音が響き渡り、何となくいい気分になった。彼女はパワステがないにも関わらず、見事なハンドルさばきでベレGRを枠内に綺麗に停めた。
空いている席に俺たちは向きあって座り、それぞれにコーヒーを注文した。
「パワステがないと大変でしょう。俺でも結構キツイから」。俺が言うと「そうなんです。私、意外に力はある方なんですけれど、やっぱりパワステになれているせいか、低速でのステアリング操作は、半拍ぐらい遅れてしまうことがたまにあるんですよ」と、にこにこしながら言う。
その後、俺は彼女がベレGRを維持するための環境が、全くないことを知った。
俺の親父から、俺に受け継がれたショップにも、ベレGRが入庫していたことを思い出し、彼女に言うと「え!そんなショップがあるんですか。ご迷惑でなければ、ぜひ紹介していただけませんか」と言うことになった。
ファミレスを出てから、俺は彼女とベレGRを先導して、あらかじめ連絡をしておいたショップに連れていった。
あれから、彼女とは自然に付き合うようになった。
もうすぐ俺たちは結婚をする。
親父も「おお、旧車オーナーの娘さんがお前の嫁さんになるのか。おまけに名車のオーナーとはな〜」と感激していた。
もうすぐ一人の女性と、一台の名車が俺の新しい家族になる。
ベレGRは、GC110Rの隣に、エアコン付きのガレージ内で保管されることになり、彼女は俺の傍に保管されることになったと言うわけだ。
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